『007 スカイフォール』 レビュー

シリーズ50周年を記念する第23作『007/スカイフォール』のサム・メンデス監督は本人曰く「クラシック」な007映画を目指した。確かにマシンガンとエジェクト・シートを装備したアストンマーチンDB5の再登場やショール・カラーのタキシード、アジャスター・パンツのグレー・スーツ姿など、ショーン・コネリーが演じたジェームズ・ボンドを彷彿とさせる憎い仕掛けがある。

しかし60年代の回顧はここまで。キャラクター設定やプロットは「クラシック」どころか、むしろ別シリーズが幕開けしたかのように新しくなっている。

秘密兵器造りのマエストロでボンドに説教する親父的立場だったQは若きコンピューター・オタクに変身。Mの秘書ミス・マネーペニーに至っては何と武闘派というバックグラウンドを持たされてしまうのだ。そして極めつけはM。元々は小言も多いが影ながらボンドを見守る上司で目立たない役柄。ジュディ・デンチが登板してからは徐々に出演シーンも増えてはいたが、本作では一挙にボンド・ガールのような存在感で、ジェームズ・ボンドも悪党をも振り回す物語の中心人物になっている。脇役に脚光を浴びさせることには、禁じ手を使われた感もあるが、流石に制作陣は最後で一種の落とし前をつける。

007シリーズに共通点するのは、ボンドが悪党を攻めて企てを潰すというプロット。だが今回は珍しく物語の後半に攻めから防御に転じる。ボンドとMの逃避行なんて旧作を踏まえていれば、想像も出来ない設定だ。『007/カジノ・ロワイヤル』でリブートとした007シリーズも再度、新境地に達した。今後シリーズはどんな方向へ進むのか。「何でもあり」な状況に不安と期待が入り混じる。

しかし何と言っても007シリーズが半世紀続いていることは驚きだ。10歳で第1作を観た少年が今や定年を迎え、孫と『007/スカイフォール』を観に行く…何て事もあるだろう。社員数十人の小さな会社イオン・プロダクションが世界最長で実質最高の興収をあげる映画シリーズを制作している訳だが、成功の秘訣は一つにその家族経営があげられるだろう。シリーズに長く貢献してきたプロデューサーのマイケル・G・ウィルソンも御年70歳。そう遠くないであろう引退が訪れた時、またシリーズが大きく変わるかも知れない。

時には難癖をつけたくなることもあるが(冒頭のガンバレル・シークエンスが3作連続で見られないこともそう!)、007シリーズはアクション・エンターテイメント映画の原点にして頂点。素直に楽しめる娯楽作品だ。2062年10月、アデルは100周年記念作品を楽しむ孫に向かって「おばあちゃんは昔ボンド・ガールだったのよ!」と自慢しているのだろうか。その時、自分はもうこの世で007を観れないと思うと唯々残念でならない。

『007 スカイフォール』原題 SKYFALL 142分。2012年10月23日ロイヤル・アルバート・ホール(ロイヤル・ワールド・プレミア)にて