『007/スペクター』 レビュー

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007シリーズ第24作『007/スペクター』は旧来のボンド・ファンが待ちわびていた映画だ。007映画が世界の劇場を席巻していた栄光の1960年代、ショーン・コネリーの演じるジェームズ・ボンドを苦しめ続けていた国際的犯罪組織がスペクター。不死身の正義のヒーローがジェームズ・ボンドなら、スペクターとその首領ブロフェルドは対極に位置する悪側にとってのヒーロー。その強大さ故に、ボンドは手下を倒しても組織を壊滅できなかった。スペクターは007シリーズに欠かせない好敵手だった。

やがてボンドとスペクターの戦いはスクリーンを出て法廷へ持ち越されることになる。著作権問題は解決せず、70年代からスペクターとキャラクターのブロフェルドは登場できなくなった。この為、007シリーズでは長期に渡ってその場限りの敵が登場することに。しかし『007/スペクター』では44年ぶり(権利問題解決後、後付けでブロフェルド登場となった作品を除く)にスペクターとブロフェルドがめでたく復活した。

007シリーズの主人公ジェームズ・ボンドはグローブトロッター。本作でもメキシコシティ、ローマ、アルプス、モロッコ、ロンドンと世界各地の風景を紹介する案内人となっていて、これが同シリーズの売りの一つ。これまでは、ロケーションが移る度に時間軸も広がってしまい、緊張の糸が緩む原因ともなりがちだったが、『007/スペクター』は最後までドラマに引き込んでくれる。ダニエル・クレイグ=ボンドの過去作品が、この映画で全て串刺し状態で繋がるわけだが(過去キャラクターの亡霊=スペクターも登場)、ボンドは少年時代から既に自分とリンクしていた敵を追う、ある種「自分探しの旅」を続ける。その過程では、久しぶりにボンドの自宅アパートが登場、初見となるミス・マネーペニー(ナオミ・ハリス)のベッド・シーンなど、細かなキャラクターの掘り下げも見られる。ボンドが海外で苦闘する中、普段はロンドンで安泰に過ごすM(レイフ・ファインズ)はMI6の吸収合併と00セクション閉鎖の危機を迎えて敵と格闘。Q(ベン・ウィショー)も珍しくジョークを披露しつつ、危険な場面に遭遇。ボンドだけでなくサブ・キャラが直面する戦いもストーリーを盛り立てる。

オーベルハウザー役のクリストフ・ヴァルツは一見、気の良いおじさんだが、その害の無さそうな顔で拷問を続ける姿が何とも不気味。デイヴ・バウティスタの演じるミスター・ヒンクスは迫力があり過ぎで、仲間を倒すシーンは強烈だった。ここはもう少しトーンを抑えた方がよかったかもしれない。ルチア・スキアラ役モニカ・ベルッチは絶望感漂う未亡人を好演するが、何せ出演シーンが短すぎる。後半でもうひと絡みあってもよかった。マックス・デンビ=C役のアンドリュー・スコットはニヒルで嫌味な男を演じるのが持ち味だと再認識した。レア・セドゥの演じるドクター・マデレーン・スワンは初めこそ強気だけれど、最後はボンドの助けが必要に。ボンドに守りたいと思わせる女性を演じ、ボンド・ガールとしては正攻法か。最後はボンドがMI6引退(長期休暇?)を決めてスワンと共に消えていくが、次回作でボンドとスワンにクリストフ・ヴァルツの演じる敵が絡む伏線のように思えたのだが、ぜひ実現して欲しい。

お馴染みのガンバレル・シークエンスについて。クレイグ=ボンドの初期3作では消えていた冒頭のポジションに、本作でようやく戻った。映画館で胸が高鳴る唯一の瞬間が、この冒頭でのガンバレル。文字通り、これを観れば「頑張れる」のだ。サム・メンデス監督の決断に感謝である。

何はともあれ、『007/スペクター』での新たなブロフェルド・サーガの幕開けを祝福し、今後の007シリーズの更なる発展を願いたい。