007次回作『Bond 25』はどうなる? シリーズの現状と展望(2)

長らく続いていたダニエル・クレイグのジェームズ・ボンド役去就問題が遂に片付いた。クレイグは2017年8月に出演したテレビ番組で、次回作『Bond 25』に続投しボンドをもう一度演じると明言した。

クレイグはボンド役を続けるのか辞めるのか……。彼の進退が注目を浴びるきっかけになったのは、Time Out が2015年10月に掲載したインタビュー(実施は同年7月)での「手首を切ったほうがマシ」発言だ。これは、次回作について、“今”考えるとするならばとの枕詞つきで、しばらくの間は007映画から離れていたいとの趣旨が前後の文脈から読み取れるが、この悪名高き発言は事実上の降板宣言と捉えられ独り歩きした。

その後の『007/スペクター』宣伝期間中には「まだ辞めたわけではない」などと、幾つかのインタビューで続投に前向きな発言もあったのだが、「手首」発言の衝撃はあまりにも強過ぎた。2015年末からは長期に渡って沈黙を貫いたことで、結果的にクレイグが自ら降板の噂を広める役割を果たし、疑念を深めたのは否めない。ようやく流れが変わったのは「手首」発言を明確に撤回した2016年10月からで、これ以降はクレイグが続投するとの観測が強まっていた。

そのクレイグは前述の番組の中で、最終的に続投を決めたのは2017年中頃であることを明かしている。が、それよりも遥かに前の時点で、クレイグにはボンド役を辞退する選択肢は残っていなかったかもしれない。

バーバラ・ブロッコリがクレイグの舞台をプロデュースし、イオン・プロダクションが007映画以外の映画やテレビなど様々なプロジェクトに乗り出したり、MGMが2016年初頭を予定していた配給会社の選定を順延させて、3〜4年間隔で製作する方針を打ち出したのも、ダニエル・クレイグ続投が前提の守備体制をとった影響が少なからずあったと思われる。

仮にボンド役を辞するならば、それを言い出す期限は恐らく2016年初め頃だったのではないか。007次回作は劇場収入だけで1作1千億円超の稼ぎが見込まれる一大ビジネス。仮にクレイグが今年になってから「辞める」と言った場合、その影響は計り知れず、大混乱になる。プロデューサーやMGMもクレイグ・シフトを組んで待っていた時間と労苦が無駄になってしまう。

結局、なぜ最終決断が最近まで遅れたのか。当人は、製作側との駆け引きを否定し「個人的」な問題があったとだけ語っている。家族との話し合いが必要だったのか。実際のところ外野には謎だらけだ。

ただ、“現役ボンド俳優”の座に長く留まることは本人に一定のメリットがある。スター・パワーに頼る部分も多かった初期のコネリー時代を除き、007シリーズは基本的にキャラクターの魅力で人気を牽引し成功を収めてきた。つまり、ボンド俳優はボンド役を卒業すると求心力を失ってしまい、007映画以外の主演作ではヒットに恵まれない。肩書きを保ちスポットライトを浴びた状態で『ローガン・ラッキー』や『Kings』などにも出演し、役者としての幅を広げようとするのは理にかなっている。もちろん、これをクレイグが意図していたのかは不明だ。

クレイグ去就問題は各方面に影を落としてきたが、監督の人選もその一つ。本来、監督はいち早く選びたいところ。しかし、クレイグが態度をはっきりさせない限り、監督は決められない。プロデューサーはクレイグの意向を尊重して監督を決めるからだ。もしクレイグが降板するなら、プロデューサーは先に監督を決定し、新監督と共に新しいボンド役を選ぶ流れになっていただろう。

前2作を務めたサム・メンデスは降板の意思を早くに表明した。が、007シリーズでは一旦離れた後で復帰する監督は珍しくない。メンデスがまたその力を発揮する機会は訪れるかもしれない。

現時点で新監督の名は発表されていないが、クレイグが続投を決断した後に、彼の意を汲んだ監督選びが本格化したはずだ。今年7月の業界発情報では、ヤン・ドマンジュを筆頭に、ドゥニ・ヴィルヌーヴ、デヴィッド・マッケンジーらが有力候補者として挙げられている。その後、クレイグはヴィルヌーヴを切望しているとのニュースも入った。クレイグが押すなら、制作側としてそれは無視できない。ヴィルヌーヴはスケジュール上の問題を抱えているとされているが、クレイグやプロデューサーが本当にヴィルヌーヴを求めているならば、既に公式発表された『Bond 25』の北米公開日(2019年11月8日)を延期してまで契約する可能性があるかもしれない。これには前例があり、『007/慰めの報酬』公開日は正式発表後に夏から秋へと延期となった他、『007/スペクター』はメンデス監督の都合に合わせたため、公開日を翌年に変更している。

情報としてはいささか古いが、他にこれまでメディアで報じられた『Bond 25』監督候補者は、ポール・マクギガンやスサンネ・ビアなどがいる。

スサンネ・ビアはトム・ヒドルストン主演のテレビ・シリーズ『The Night Manager』でスパイ・ファンを唸らせたデンマーク出身の女流監督。もし起用されれば007シリーズには異色の人材となるが、アカデミー賞外国語映画賞に輝いた作品の監督も手がけており、近年のドラマ畑監督を使う流れには添っている。

プロデューサーのバーバラ・ブロッコリは女性も含めた映画界の多様化を促進する運動に力を注いでおり、時期はともかく、007シリーズの監督に女性を起用する日が来てもおかしくない。そしてその未来を先取りするかの様なニュースが7月に飛び込んできた。イオン・プロダクションが女性を主人公にしたスパイ・スリラー映画『The Rhythm Section』の制作を発表。主人公ステファニー・パトリックはブレイク・ライヴリーが演じ、女流監督リード・モラーノがメガホンをとる。

現状で注目度は低いが、これは二匹目のドジョウに化ける可能性を秘めている。マーク・バーネル著の原作は4作あり、イオンは新たに女性版007としてシリーズ化を目論んでいるようだ。うまくいけば、007とステファニー・シリーズを交互にリリースさせる魂胆なのか。時間もコストもかかるロケを5カ国に渡って敢行予定とのことで、第1作から潤沢な予算を注ぎ込み、007スタッフを集結させての布陣となりそうだ。

しかし、イオンの新しい試みがうまくいくのかまだ分からない。イオン・プロダクションといえば、007シリーズの制作に特化した会社。半世紀以上の歴史と、親・子・孫の3代に渡って続くファミリー・ビジネスが特徴の、ハリウッド大作を作る独立した映画制作会社としては稀有な存在。このイオンが著作権を握りつつ、代々続くノウハウを基に専門に007映画を作り続けてきたことが、同社成功の秘訣。007シリーズ最大の功労者であったイオンのビジネスが言わば多角経営化することで、屋台骨がぐらつきはしないか。007シリーズの今後にプラスの影響を与えるのか。その行く末が注目される。


007次回作『Bond 25』はどうなる? シリーズの現状と展望(1)