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『007/カジノ・ロワイヤル』ロイヤル・ワールド・プレミア – エリザベス女王陛下の御前で舞台挨拶に挑むダニエル・クレイグらキャストとマーティン・キャンベル監督、プロデューサー(オデオン・レスター・スクエア)

日本でもしばしば開催され、お馴染みのイベントになっているハリウッド映画のプレミア。ただ、ロンドンで開催される007映画プレミアは、その内容や規模からジャパン・プレミアとは趣向が異なる。ここでは、ロンドンの007映画プレミアの特色を、一般ファンが参加するための実践的方法も交えながら解説する。

まず、ロンドンで開催される007映画プレミアは、そのほとんどが世界初公式上映、つまりワールド・プレミアである。過去にアメリカで開催されたワールド・プレミアは3作のみ。第25作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』もロンドンがワールド・プレミア開催地になりそうだ。

ロンドンでのプレミアには、大勢の関係者が続々と駆けつける。関係者の内訳は、俳優やスタッフ、映画製作・配給会社、プロダクト・プレイスメント企業、撮影に協力した企業、ロケ地自治体やその同伴者等々。過去作の俳優・スタッフや、セレブなども参加する。なお、批評家向けには、プレミア前に別途プレス試写会が開催されている。

ジャパン・プレミアでは数人の俳優らがレッドカーペットを歩いた後、上映会場で舞台挨拶をしてそそくさと退場、ファンは取り残される。一方、ロンドンでは数百人から千人超規模の関係者が実際にその場で007映画を鑑賞する。映画を作った俳優やスタッフ本人達と、時間と空間と体験が共有できる訳だ。それはまるで、保護者が子供の発表会に来たかのような、内輪の高揚した独特な雰囲気である。オープニング・クレジットで拍手や歓声の沸き起こる様子を見たが、これは自分の名前がスクリーンに投影されたスタッフやその家族たちが興奮していたのだろう。自席の前列には前作でボンドに殺された敵役が座っていたり、終映後に席を立つと、さっきボンドに殺されたはずの悪役俳優とすれ違ったり。虚構と現実の巡り合わせになんとも言えない感覚が湧き起こる。

関係者には招待状が送付されるが、一般ファンであっても主催者からチケットを購入することで出席が可能。ただし、ロンドンで開催される007映画プレミアは慈善事業であり、主催者は映画会社ではなくチャリティ団体という特色がある。一般向けチケット販売は団体が直接手がけ、通常の流通ルートには乗らない。厄介なのは、この主催者が毎回変わること。そして団体により販売方法は異なる。

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』も、どの団体がチケット販売を仕切るのか今のところ不明。正式アナウンス後は、その団体を通じて購入方法を調べることになる。団体によっては先着順、抽選制などの方法を謳っているが、公平性が担保されている訳ではない。団体と近しい者にチケットが優先的に回り、部外者が得られるのは僅かな余剰分だと思われる。

幸運にも早々とチケットが購入できた場合。日本から直前に渡英するのであれば、チケット受け取りは郵送でなく現地ピックアップしかない。チケットの発送開始は開催日の数日前なので、日本にいたら間に合わない。実際にこれで一度苦労した。その時の団体は他にもトラブルを起こしていたようで、会場前でチケットが届いていないと嘆く現地青年を見かけた。

売り切れてしまったり、抽選に漏れた場合でも諦めるのは早い。航空券もそうだが、参加者が多いほどキャンセルや余りのチケットが出回る。この情報は通常オープンにならないので、開催直前になって直接問い合わせを入れると、あっさり入手できることも。この方法で実際に2度、成功した。

チャリティ団体から直接購入ができなかった場合。奥の手として、ロンドンのコンシェルジュ会社に頼む方法もある。高級ホテルや、クレジットカードの上級会員向けデスクもこういった会社を下請けとして使っている。ネット検索で簡単に見つけられるだろう。難点はお値段で、直接購入よりもかなり跳ね上がるが、それだけに高確率でチケットが入手できる。『007/カジノ・ロワイヤル』プレミアでのダニエル・クレイグ曰く「一生に一度」の体験と思えば、安いのかもしれない。

しかし、チケット争奪戦は今後激化する可能性がある。問題は劇場のキャパシティ。007映画のプレミア会場となる劇場は数作を除いて、イギリス最大手のシネマ・サーキット、オデオンのチェーン・マスターであるオデオン・レスター・スクエアが選ばれている。かつて座席数は2千席前後あったが、2018年の大改修でその半数以下の800席にまで減った。これで、一般向けの枠は大幅に減ることになる。広場を囲む近隣劇場とリンクして拡大プレミアを実施した例もあったのだが、主要キャストらとは別の会場に入るのでは、プレミアに出席する醍醐味は減ってしまう。

直近の2作ではロイヤル・アルバート・ホールが会場になった。このホールになるのであれば、3千席以上あるはずで、チケット入手の確率は遥かに高まる。こちらはビクトリア女王時代からのコンサート・ホールであり、映画鑑賞に向かない環境なのは残念なところ。007映画を含めた大作映画はキャパシティ面から、今後このホールを使う傾向が強くなるのではないだろうか。なお、ロイヤル・アルバート・ホールが一般向けチケットを販売したことがある。この際は電話の他、公式サイトへアクセスした順に購入手続きが受けられるシステムを取っていた。あらかじめ同サイトのユーザー登録やニュースレター購読を済ませておくと良いだろう。

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『007/ダイ・アナザー・デイ』ロイヤル・ワールド・プレミア – シリーズ40周年を迎えて歴代4人のボンド俳優が舞台挨拶(ロイヤル・アルバート・ホール)

余談ながら、『007/ゴールデンアイ』のワールド・プレミアはニューヨークのラジオ・シティ・ミュージック・ホールで開催された。通常の興行イベントと同じ扱いでチケットマスター経由の発券。うろ覚えだが2、3日前でも空席があったと記憶している。これはロンドン事情とは全く異なる。

ロンドンでの007映画プレミアには、1960年代から慣例的に英国王室メンバーが参加するという特色もあり、「ロイヤル・プレミア」と称される。世界初上映なら「ロイヤル・ワールド・プレミア」だ。その時々で参加メンバーは異なるが、エリザベス女王&フィリップ殿下、チャールズ皇太子&ダイアナ妃、アン王女など。上映前には国歌斉唱があったりもする。やはりイギリスを代表する映画として、王室も積極的に応援しているのだろう。

その為もあってか、007映画プレミアのドレスコードはブラックタイ。映画を観るためにタキシードを着るのは主人公ジェームズ・ボンドを気取るようだが、これはヒーロー映画の上映時に見られる自発的コスプレではなく、義務である。なお、タキシードはアメリカで付けられた呼び名であり、発祥地イギリスでの呼称はディナー・ジャケットやディナー・スーツ(「タキシード」も間違いなく通じる)。映画『007/カジノ・ロワイヤル』でもボンドとヴェスパーの会話で呼ぶのは「ディナー・ジャケット」。一般にはこれだけで上下一式を指す。

日本でタキシードと言えば、上着の襟がショール・カラー、シャツはウィング・カラーのイメージがかなり強い。現在のイギリスはピークド・ラペルとターンダウン・カラーが圧倒的に多く、対照的である。日本では初めてタキシードが入ってきた時のスタイルにあまり変化を加えず、そのまま残ったのではないだろうか。イギリスではより身近な装いでトレンドの波がある。

イギリス人であるボンドも映画の中の着用頻度はピークド・ラペルが一番多い。続いてショール、ノッチの順。ロジャー・ムーアやピアース・ブロスナンはショールを着なかったが、『007/ドクター・ノオ』のショーン・コネリーや『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のダニエル・クレイグの「なりきり」ならショール・カラー。しかし、シャツの襟はターンダウンの一択しかない(例外的に結婚式シーンでウィング・カラーを着たが、その時のジャケットはタキシードでなくモーニング)。

ついでに言えば、シングル・ジャケットでベストなしの場合は必要とされてきたカマーバンドを、イギリスでは近年着けない場合も多い。一説には『007/カジノ・ロワイヤル』のボンドがブームの火付け役だとか。ブロスナン=ボンドの時にも現地店員から「カマーバンドは必要ない」と言われたことがある。昭和のおじさんが使う腹巻のようなイメージがしていたので、着けないで済むのなら有り難い。なお、イギリスのカマーバンドは着ける場合でも、幅が狭くあまり主張しないタイプが人気のようだ。

チケットを手にしてタキシードやドレスに着替えた出席者は、プレミア会場前のレッドカーペットを歩くことになる。そのカーペット上では俳優がインタビューに答えたり、集まったファンからのセルフィーやサインの要望に応じる。一般枠からの出席であってもタイミングによって俳優達とすれ違うことがあるが、注意したいのは、カーペット上の者がサインや握手などを求めるのはマナー違反ということ。どうしても欲しければ、大勢のファンと同様、レッドカーペットの外側に並ぶことになる。

日本では事前抽選の当選者が参加するスタイルだが、ロンドンの場合は誰もが自由にレッドカーペットの様子を間近で見学できる。ただし最近の傾向として、ロイヤル・アルバート・ホール前では当日に現地で番号を振られるので、順番に規制エリアに入場し、あとは各々が好きな場所を陣取ることになる。良いポジションに立てば面白いほど次々とサインが手に入るが、最前列の確保は必須条件。撮影中のロケ地で現地ファンのサイン要望を断るダニエル・クレイグの姿を見かけたことがあるが、この夜のクレイグのファン・サービスは格別だ。

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『007/スカイフォール』ロイヤル・ワールド・プレミア – レッドカーペットでQ役ベン・ウィショーとすれ違う(ロイヤル・アルバート・ホール)

上映会場入口ではセキュリティ・チェックがある。SNSが普及したお陰か、以前はスルーされていた携帯電話の持ち込みも制限されるようになった。上映前の会場内では、スクリーンにレッドカーベットのライブ映像が映し出される。最近はこれが世界に向けてインターネット中継されている。王族は最後に入場。プロデューサーが一堂に並ぶキャスト陣を紹介して、舞台挨拶。その後に上映が始まる。なお、終映時は王族が退場するまで、その他の出席者は席を立てないので注意。これはマナーと言うよりもセキュリティ上の規制だ。

ロンドンの夜を締めくくるのがアフターパーティー。これは文字通り、プレミアが閉幕した「後」に開催される、関係者の打ち上げである。会場は公園の特設施設であったり、貸し切った美術館であったり。基本的にはドリンクを片手に会話を楽しむ会。もし、俳優やスタッフに挨拶するタイミングがあるとすれば、このパーティーがチャンスになると思われる。大勢の関係者に囲まれているはずで、厳しいかもしれないが。残念なことに、これは一般向けのチケットが滅多に出回らない。一度だけ主催者から入手できるチャンスもあったが、高額で手が出せなかった。機会が巡るなら逃さず、是非参加していただきたい。

なお、映画界で使う「premiere」は、それだけで「最初の上映」という意味がある。散見される「プレミア上映」「プレミア試写会」といった訳には重複の違和感もあるが、より分かり易い日本語表現として定着していくのかもしれない。