タグ別アーカイブ: コラム

007次回作『Bond 25』はどうなる? シリーズの現状と展望(1)

『007/スペクター』の英国公開から間もなく一年。今ここで007シリーズが置かれている現状を整理し、その今後も占って見たい。

この一年、メディアを賑わせてきたのは、シリーズ次回作『Bond 25』(第25作)でジェームズ・ボンドを演じる俳優が誰になるのかという話題。事の発端は Time Out が掲載したインタビュー記事だった。これまで4作でボンド役を演じてきたダニエル・クレイグが、次回作のことを今考えるのなら「手首を切ったほうがマシだ」と発言。これが事実上の降板表明と捉えられ、次のボンド役は誰なのかと騒がれ始めた。この発言は果たしてどこまでがクレイグの本心だったのか。本人のみぞ知るところだが(或いは自身でも分からなくなっていたのか…)、共演者も擁護していたように、心身ともに疲れ切った長期間に及ぶ撮影が終了した直後のインタビューであり、当時は頭を空にして休息したいという思いが支配的だったのだろう。

プロデューサーがダニエル・クレイグ続投を望む声は直接何度もメディアに取り上げられてきているものの、クレイグは前述の発言から一年を過ぎた今もボンド役を続投するか降板するのか態度を表明していないが、それは何故か(2015年の時点でクレイグはもう1作の出演契約が残っていることを語っていたのだが、2016年に入ったプロデューサー、マイケル・G・ウィルソンはクレイグとの契約はないと発言した。『Bond 25』のオプション契約が2015年内で期限切れになり、仕切り直しが必要となった可能性がある)。クレイグと制作側は良好な関係を継続していた模様で、クレイグが契約条件を釣り上げるため、サインを先延ばしにしているとは考えにくい。クレイグは降板の決意を早期に制作側へ伝えたが、引き留めたいプロデューサーらが説得に時間をかけてクレイグの心変わりを待っているのだろうか。

クレイグがもし既に降板を決めたすれば、その原因は「家族」かもしれない。クレイグの妻で女優のレイチェル・ワイズがボンド役に難色を示していることが伝えられている。クレイグは映画『ミケランジェロ・プロジェクト』をワイズの意向で降りたことが以前明らかとなったが、より大規模な007映画の撮影は約半年間。プリプロダクションやプロモーションも含めると、束縛期間は世界各地で長期に及ぶ。クレイグはワイズの映画撮影時、海外のロケ地へ出向いて幾度となく付き添っているが、二人の時間を重視する夫妻にとって、007映画への出演は大きな「障害」と言えなくもない。『007/スペクター』ではクレイグが足を負傷し手術を受けた。50歳近いクレイグがアクション映画に出演することへの不安も妻にはあるようだ。

ダニエル・クレイグがボンド役を辞めたとして、誰が七代目ジェームズ・ボンドを襲名するのか。これまでに有力候補者として挙げられているのは、トム・ヒドルストンやエイダン・ターナーら。留意すべきは、現状で時期ボンド役候補者について名前を具体的に報じているのは、タブロイド紙である点。自ずとその信憑性には疑問符が付く。一般メディアでもニュースとして取り上げているが、これらは基本的にタブロイドの後追い記事に過ぎない。クレイグに2作6800万ポンドの続投オファーと報じ話題を振りまいた件も、出所は英タブロイドの Daily Mail。同紙は一時期007映画に関して精度の高い独占スクープを量産していたが、当該記事は実績ある記者とは別人が書いたものだ。とは言え、タブロイド発の嘘のように思えるニュースが実は事実だった、ということもある。クレイグを選出した『007/カジノ・ロワイヤル』ではボンド役候補者リストに200人の俳優の名が連なっていたという。イギリスで活躍する30代男優ならそのほとんどが候補者になるのではないか。取り敢えず、人気俳優の名前を記事にしておけば、「嘘から出た誠」になる可能性はあるだろう。いずれにしても、様々な噂が飛び交うのはこの人気長寿シリーズならでは。振り回されないよう非公式情報を遮断する手もあるが、嘘か事実か分からない噂を楽む余裕と忍耐が007ファンには必要かもしれない。

ダニエル・クレイグは『007/スペクター』の宣伝終了後からメディアへの露出をほとんど避けてきたが、10月7日にニューヨークで行われるイベントでは、一年近く続いた長い沈黙を破り対談に応じる予定だ。この日クレイグの口から何が飛び出すのか。『007/慰めの報酬』でM(ジュディ・デンチ)は暴走したジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)を任務から解こうとするが、最後のシーンで「戻って欲しい」と頼む。ボンドから返ってきた答えは「辞めた覚えはありません」。これこそ、クレイグ・ファンが今なによりも求めている台詞だろう。